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神戸地方裁判所姫路支部 昭和38年(わ)307号 判決

被告人 黒田伝一

昭一一・一・二生 大工

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

未決勾留日数中九〇日を右刑に算入する。

本件公訴事実中、昭和三八年三月二〇日付起訴状第一の窃盗の点については、被告人は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、かつて姫路少年刑務所で服役中、同所で知り合つた受刑者小田輝一から、同人の身柄引受人野口昭三について聞知していたところから、右野口から金員を詐取しようと企て、小田がいまだ服役中の昭和三八年二月一六日午前一一時頃、大阪府北河内郡門真町古川橋二二五番地野口昭三方に赴き、同人の妻幸子に対し、そのような事実はないのにかかわらず、「小田君から刑務所を早く出られるよう運動してくれと頼まれた。保護司をしている自分の父親と弁護士とが今からその運動のために書類をもつて東京へ行くのだが、その書類代を引受人のあんたのとこで出してほしい。小田君からも、金のことはあんたのとこに頼んでくれるよう言われたから。」と を言つてその旨同人を誤信させ、よつて同日同所において同人から書類代名下に現金一万三千二百七十円の交付を受けてこれを騙取し

第二、かつて同じ飯場でいつしよに働いていた自動車運転手定森治から、自分の実家が裕福である旨聞知していたところから金員を詐取しようと企て、同年同月一九日午後八時頃、岡山県勝田郡那義町七二七番地の右定森の親元へ赴き、同人の母秋野に対し、そのような事実はないのにかかわらず「自分は治さんが働いている会社で監督をしているが、治さんが昨夜大阪で交通事故を起し、相手の人の目を怪我させ、本人は被害者を連れて治療に東京へ行つた。事故の損害は会社で負担するが、治さんは、妻子のある被害者に気の毒だからといつて、被害者に渡す見舞金を実家から貰つて来てくれるよう頼まれた。」と を言つてその旨同人を誤信させ、よつて、同夜同家に一泊した後、翌二〇日午前七時三〇分頃、津山市所在の国鉄津山駅構内において、同人から、その二女三枝を介して、現金五千円の交付を受けてこれを騙取し

第三、同年三月一日午後七時頃、加古川市加古川町泊町一丁目所在の加古川公会堂自転車置場において、田中正人所有の自転車一台(時価約一万円相当)を窃取し

第四、氏名不詳者二名と共謀のうえ、同年同月七日午前一時頃、神戸市垂水区西垂水陸之町一〇五七番地洋品雑貨店前田二郎方において、同人所有にかかる商品である男物セーター等衣類約二二点(時価合計約三万七千九百八十円相当)を窃取したものである。

(証拠の標目)(略)

(累犯となる前科)

被告人は、(一)昭和三二年九月五日確定で、加古川簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年六月に、(二)昭和三四年八月一四日確定で、神戸地方裁判所姫路支部において窃盗、詐欺、恐喝、横領罪により懲役二年に、(三)昭和三六年一一月一八日確定で、神戸地方裁判所姫路支部において詐欺罪により懲役一年に各処せられ、いずれもその頃右刑の執行を受け終つたもので、この事実は、被告人に対する前科照会回答書及び被告人の当公判廷における供述によつて明らかである。

(法令の適用)

被告人の判示行為中、第一及び第二は各刑法第二四六条第一項に、第三及び第四は各同法第二三五条(第四についてはさらに同法第六〇条)に、それぞれ該当するところ、被告人には前示前科があるので、同法第五六条第一項、第五七条、第五九条により各累犯の加重をし、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により、犯情の最も重いと認める判示第四の罪の刑に同法第一四条の制限内で法定の加重をし、その刑期範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、同法第二一条により未決勾留日数中九〇日を右刑に算入し、訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項但書により、被告人にはこれを負担させないことにする。

(昭和三八年三月二〇日付起訴状第一の窃盗の点につき被告人を無罪とする理由)

本件公訴事実は、「被告人は昭和三八年二月二五日午後一一時頃明石市魚住町清水新田所在の竹内梅治方西側納屋軒下において志水光男所有の自転車一台(時価約三千円相当)を窃取した」というのである。

被告人が右日時、右被害者所有の自転車一台を窃取したことは本件証拠上明らかであるけれども、犯行場所に関しては、被告人の司法警察職員に対する昭和三八年三月一三日付供述調書中右公訴事実に符合する部分は、被告人の当公判廷における供述及び被告人の司法警察職員に対する同年四月一五日付及び同年五月四日付各供述調書に照して信用できず、かえつて右各証拠及び志水光男作成名義の被害届によれば、本件自転車は、右被害届に記載のとおり、右被害者の住居地たる神戸垂水区東垂水町川原通一の一八垂水荘アパートの軒下から窃取したものであつて、被告人の捜査官に対する前記当初の供述は、被告人が当時既に犯していた判示第四の犯行(神戸市垂水区西垂水町での窃盗)の発覚を恐れて、本件犯行場所に関し、真実と全く異る虚偽の供述をしたものであることが認められる。(なお、捜査官は、被告人の前記当初の供述に従い、捜査の結果、被害者不明として同年三月二〇日本件起訴をなし、後日、被害者が判明し前記のような被害場所の記載のある被害届が提出されたが、単に起訴状中の被害者を「被害者不明」から「志水光男」に訂正しただけで公訴を維持してきたものである。)

してみれば、右のように犯行場所の全く異る両者の間には、いわゆる事実の同一性が認められないから、結局、本件公訴事実は、これを認めるに足る証拠がないものと言うべく、その証明が十分でないから、無罪の言渡をする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 桜井敏雄)

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